INTERVIEW

作家インタビュー

【廻窯舎】多賀洋輝、楓夏 / 陶芸家夫婦が紡ぐ手仕事の物語

京都の静かな工房で、土に向き合いながら作品を生み出す陶芸家夫婦の多賀洋輝さんと楓夏さん。大学の陶芸部で出会ったおふたりは、時間をかけて言葉と手仕事を重ね、作陶を中心に回る心地よい暮らしを築いてきました。自然の理や旅の風景、幼い頃に親しんだ物語の色彩が美しく織り込まれた器の背景には、飾らない日々の情景と、手仕事への誠実な想いが息づいています。

電動ろくろの躍動と、大きな窯へのワクワク――陶芸との出会い

おふたりと陶芸との出会いは、学生時代の些細な好奇心がきっかけでした。高校生のときに部活動で電動ろくろを体験した楓夏さんは、目の前で土の形が自在に変幻していく様子に言葉を失うほどの面白さを感じたと言います。その後、進学した大学には陶芸部がなかったため、「陶芸を続けたい」との思いで京都市内で探して辿り着いたのが京都大学の陶芸部でした。

一方、昔から絵を描いたりプラモデルを作ったりすることが好きだった洋輝さんは、大学の新歓期にキャンパスを巡る中で陶芸部に出会います。そこに鎮座する2つの大きな窯や数々の薬品、ろくろなどの本格的な設備を目にした瞬間、「大学のサークルでこんな世界があるのか」とワクワクした胸の高鳴りが、作陶への第一歩となりました。

土がつなぐふたりの時間。生活の真ん中に「陶芸」がある心地よさ

熱量の差が生まれやすいサークル活動の中で、夜遅くまで工房にこもり熱心に土を捏ねていたのが、洋輝さんと楓夏さんでした。作業の傍らで技術的な質問を交わし、学園祭での作品の成果を競い合い、年に一度の展覧会に向けて創作に励む中で、ふたりの距離は自然と縮まっていきました。

陶芸は成形から乾燥、焼き上がりまでに時間がかかる手仕事です。そのため、日々の生活リズムそのものが作陶の周期と優しく重なり合っていきます。一緒にご飯を食べ、野外でのバードウォッチングを楽しんだり、自然の風景に心を寄せたりする暮らし。

「陶芸が生活の真ん中にあると、同じ時間を長く過ごすことになります。食の好みや好きなものが似ていくのも自然な流れでした」と語る通り、ふたりが重ねてきた日常の穏やかな時間が、そのまま作品全体の醸し出す空気感へと注がれています。

遠回りで見つけた確信。「作り手」として生きていく決意

洋輝さんは大学院で農学研究に没頭する傍ら、「自分の手でできることを仕事にして生きていくのが一番自然」というしなやかな価値観のもと、早くから陶芸の事業化を見据えていました。代々続く窯元ではないからこそ、自らの足で物件を探し、小さな窯とろくろ1台から手探りで工房を立ち上げました。一方、楓夏さんは一度お菓子の老舗卸業者に就職し、物流センターでの出荷管理や企画に関わる会社員生活を経験します。

ふたりでお店を育てるという選択

就職して別々の道を歩みながらも、楓夏さんは休みの日に洋輝さんの工房で小さな窯を使い、土に触れる時間を大切にしていました。当時、一人で事業を立ち上げていた洋輝さんの胸には、「ひとりで陶芸をして生きていくのは結構難しい。一緒にやってくれる人がパートナーだったらいいな」という想いがあったと言います。

忙しい会社員生活の中で「一生陶芸を続けながら生きていきたい」という想いを再確認した楓夏さんは、3年勤めた会社を退職し、京都の陶芸職業訓練校へ進学。「1日に同じものを100個、200個と黙々と挽き続ける作業が、私にとっては全く苦ではありませんでした。自分は陶芸の道でやっていけるかもしれないと確信に変わった瞬間でした」。

そして、洋輝さんの事業が形になり始めていた頃、楓夏さんは「本格的にこっちに入ろうと思う」と打ち明けます。「しんどいよ」と心配する洋輝さんに、「やりたい」と真っ直ぐに答えた楓夏さん。社会人を経験したからこその強い覚悟が、ふたりで一緒にお店を運営していくという大きな決断へと繋がりました。

物語の色彩と、自然の公式――ふたりのインプットが織りなす美

洋輝さんと楓夏さんが生み出す作品には、それぞれの個性が美しく共鳴しています。

楓夏さんのインスピレーションの源は、故郷である岩手県花巻市の静謐な空気感や、幼い頃に親しんだ『モモ』などの児童文学、そして画家パウル・クレーが描く色彩とリズム感です。「純粋なアートでありながら、毎日手にとる『道具』であるからこそ陶芸は愛おしい」と語る楓夏さんの器には、絵本の挿絵を眺めているときのような、どこか懐かしく温かな情景が宿っています。

対して洋輝さんは、自然界の動植物の美しさや地域の習俗、そして土や重力という強い構造的制約を克服してきた先人たちの技術に着目します。「葉っぱの形も器の構造も、自然の最適化という意味では同じ美しさの公式で語れる」という言葉のように、論理的な思考と確かな技術力で、現代の食卓にすっと収まる洗練されたフォルムへと昇華させています。

いつもの食卓を、ほんのり愛おしく。日常に寄り添う「用の美」

2週間から1ヶ月というサイクルの中で、喜んだり試行錯誤したりしながら丁寧に生み出される器たち。特別な日のための鑑賞物ではなく、朝の一杯のコーヒーや、ごく普通の夕食の風景にそっと寄り添ってくれる佇まいが魅力です。

土という自然の素材に向き合い、おふたりの歩んできた時間や物語が詰まった器は、手に取った瞬間に手のひらへとしっくり馴染みます。何気ない日常のひとときを、ほんの少し愛おしく、味わい深いものに変えてくれるはずです。

【munyより:この記事を読んだあなたへ】

おふたりとお話ししていると、陶芸に対する誠実な情熱と、お互いを尊重し合う温かな空気がじんわりと伝わってきます。日々の愛おしい時間を丁寧にかたちにした器たち。手にとった瞬間にホッとするような温度を感じる器を、ぜひあなたの食卓にも迎えてみてください。